在宅医療における認知症について44~家族・介護環境の調整 〜BPSDがこじれる典型的パターン〜
- 賢一 内田
- 10月9日
- 読了時間: 3分

うつ症状やBPSD(認知症の行動・心理症状)に対して、断酒・減薬・身体疾患の治療・非薬物療法など、医学的にできることをすべて行っても、それでもなお精神症状が残ることがあります。
その場合に必要になるのが、家族・介護環境の調整です。場合によっては、医学的介入と同時並行で介護環境の見直しを進める必要があります。
🏠 介護環境の調整が必要なとき
本人の不安・混乱が強く、家庭内での言い争いが増えている
介護者が疲弊して、つい叱責や注意が多くなっている
介護サービス(デイ・ヘルパーなど)を利用していない
医療・介護の情報共有が不十分になっている
こうした場合、まずは介護保険の申請を勧めましょう。介護度の認定を受けることで、デイサービスやショートステイ、訪問介護などの支援体制が整い、介護者の負担を軽減できます。
⚡ BPSDがこじれる典型的パターン(図4)
BPSDが悪化してしまう典型的な流れは、実は**「善意の指摘」から始まる**ことが多いのです。
たとえば——
本人が「日付を間違えた」「同じ話を繰り返した」などの失敗をする
周囲の人が「前にも言ったでしょ」「違うでしょ」と指摘する
本人は「なぜ注意されたのか分からない」
理由を理解できても、記憶障害のためすぐに忘れる
しかし、「叱られた」「怒られた」という嫌な感情だけは残る
すると、本人の不安や混乱が強まり、ますますおかしな言動や拒否的な態度が出てきます。そしてまた周囲が指摘し……という悪循環に陥るのです。
💬 医師がよく出会う場面
診察室で医師が「本人を叱らないようにしましょう」と伝えると、ご本人がこう言うことがあります。
「先生、よくぞ言ってくださいました!もっと言ってやってください!」
このような反応が出るときは、すでに**「叱責の悪循環」**に入っているサインです。この状況を断ち切るには、周囲の対応を次のように変えることが重要です。
🌱 BPSD悪化を防ぐための家族対応
本人の失敗を指摘しない・注意しない
うまくできたときは大げさなくらい褒める
話を合わせる(「そうなんですね」と肯定的に受け止める)
間違いを訂正するより、安心感を優先
介護者自身が休息・気分転換を取れるよう、支援体制を整える
特に有効なのは、本人の行動の背景にある「不安」や「混乱」を理解する姿勢です。怒りや拒否の裏側には、「自分が何を間違えたのか分からない」苦しさが隠れています。
🧭 医師からのアドバイス
「指摘したり注意したりすればするほど、認知症が進行しますよ。」
この言葉を、家族や介護者への明確なメッセージとして伝えることが大切です。「叱らない・訂正しない・穏やかに受け止める」ことが、実は最も効果的なBPSD予防策なのです。
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