看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する51~エコーで腹水量を推定する方法
- 賢一 内田
- 10月28日
- 読了時間: 3分

〜体腔液の性状と臨床判断のポイント〜
① 腹水量の目安をエコーで評価する
腹水がどの程度たまっているのかを知ることは、治療方針を立てるうえで非常に重要です。CTなどの精密検査ができない場面でも、エコー(超音波)を用いた簡便な腹水量推定法が考案されています。
この方法では、腹水の分布と厚みを基準に概ねの貯留量を推定します。
腹水の分布 | 推定量(mL) |
モリソン窩や脾腎境界のみ | 約150mL |
ダグラス窩または膀胱上窩のみ | 約400mL |
左横隔膜下にわずかに貯留 | 約600〜800mL |
両側傍結腸溝(左右結腸腹側)にも貯留 | 約1,000〜1,500mL |
右横隔膜下に厚み1.0cm | 約2,000mL |
右横隔膜下に厚み2.0cm | 約3,000mL |
※仰臥位・体重50kgの成人を標準とした推定値(文献8より引用)
このように、**液体の「分布範囲」と「厚み」**を観察することで、体腔全体の腹水量をある程度把握できます。
② 貯留液の性状を観察する
胸水や腹水は、通常は**漿液性(透明な液体)で、エコー上は無エコー域(黒く抜けた領域)**として描出されます。
しかし、次のような場合は内部に“浮遊するエコー”が見られ、液体が濁った灰色調になります。
出血(血性胸水・血性腹水)
感染(膿性胸水・膿性腹水)
がん性胸膜炎・がん性腹膜炎
このような場合、内部エコーの混在や層状の分離像が観察されることがあります(図参照)。
③ 臨床的な意義
体腔液の有無は、診療上の判断に直結します。
外傷患者で液体を認めた場合 → 腹腔内出血の可能性
がん患者で胸水を認めた場合 → がん性胸膜炎の可能性
同様に腹水を認めた場合 → がん性腹膜炎の可能性
エコーは、これらの液体(無エコー域)を検出するのが非常に得意であり、装置の性能差も比較的影響しません。重要なのは、液体がたまりやすい部位に正確にプローブを当てることです。
④ 日常診療への応用
腹水や胸水のエコー評価は、在宅医療・外来・急性期を問わず、その場で患者さんの状態を把握できる迅速な手段です。
呼吸苦がある → 胸水を確認
腹部膨満がある → 腹水の範囲・厚みを確認
この手技を日常的に習慣化しておくことで、あわてず、確実に病態を評価できるようになります。
まとめ
腹水は「分布」と「厚み」でおおよその量を推定できる
液体の性状(透明・混濁)で病態を推察できる
エコーはベッドサイドでも活用可能な即時評価ツール
エコーで見える“黒い水の広がり”は、ただの映像ではなく、今まさに体の中で起こっている変化を映し出しています。




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