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在宅酸素療法を科学する6~

  • 21 時間前
  • 読了時間: 7分


COPD患者の運動時低酸素血症と酸素療法の有用性——運動能への影響を探る


COPD酸素療法HOT(在宅酸素療法)運動耐容能6分間歩行試験低酸素血症SpO₂SBOT(短時間酸素療法)肺リハビリテーション呼吸困難DLco(肺拡散能)FEV₁(1秒量)


運動時低酸素血症とは

COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者において、運動時に低酸素血症が生じることは珍しくない。しかし、その定義が一定でなく、さらに標準化された運動負荷試験のプロトコルも存在しないため、運動能に対する酸素療法の効果を体系的に評価することが難しい状況が続いている。

POINT

COPDで運動時低酸素血症が起こる原因は多因子的であり、換気血流比不均衡・拡散障害・動的過膨張による換気量減少・肺内シャントなど、様々な機序が複合的に関与している。


日常生活動作(ADL)と酸素飽和度の変化

中等症から重症のCOPD 30名(%FEV₁ 平均37%、安静時PaO₂ 平均68 mmHg)を対象とした研究では、動脈血酸素飽和度(SaO₂)の低下は「歩行時」で最も顕著であり、次いで「体を洗うとき」に大きかった。また、SaO₂が4%以上低下する1時間あたりの回数も歩行時と入浴時に多く、6分間歩行が日常動作中の低酸素血症を予測する指標になりうると指摘されている。

37%

対象者の%FEV₁平均値


(範囲 16〜64%)

68mmHg

安静時PaO₂平均値


(範囲 54〜89 mmHg)

最大

歩行時と体を洗う動作で


SaO₂低下が最も顕著

安静時の指標による予測の限界

安静時の酸素飽和度や肺機能検査値は、運動時低酸素血症を生じるCOPDを予測するには信頼性が低い。ただし、肺機能が比較的良好で、特に肺拡散能(DLco)が維持されている場合は、運動時でも低酸素血症をきたさないことの予測につながることが示されている。

注意

García-Talaveraらによれば、6分間歩行テストの初め3分半に低酸素をきたさなかった場合は、日常生活でも問題のある低酸素血症は生じないことが示されている。



運動時低酸素血症を予測する因子

同程度の閉塞性障害であっても、肺気腫優位型かつDLcoが低値の場合のほうが、労作時低酸素血症を生じやすいと報告されている。

  • 安静時PaO₂ 55 mmHg以上のCOPD患者で漸増負荷自転車エルゴメータ試験を実施した研究では、40%が運動中に低酸素血症をきたした(文献4)。低下した群のDLcoは7.1 mL/分/mmHg、低下しなかった群は15.3 mL/分/mmHgと、DLcoに大きな差があった。

  • DLcoが予測値の55%以上であれば低酸素血症は生じなかった。DLcoかFEV₁のいずれかが予測値の35%以下であれば、4分の3が自転車エルゴメータで低酸素をきたした(文献4)。

  • iKnowerらは81名のCOPD患者に6分間歩行テストを実施。安静時SpO₂が95%以下の約50%は低酸素血症を生じたが、SpO₂が96%以上では16%しか低下しなかった(文献5)。

  • i大規模検討(8,017例)では、DLcoが予測値の59.7%を閾値として設定すると、感度・特異度ともに約75%で運動時低酸素血症を予測できると示された(文献6)。

CLINICAL POINT

漸増シャトルウォーキング試験を用いた評価では、50名の安定期COPDに対して、6分間歩行試験では2.8%が低酸素をきたしたのに対し、漸増シャトルウォーキング試験ではより多い4.6%が低酸素を生じた(文献7)。


運動時低酸素血症と死亡率

安静時SaO₂が94.6±2.0%のCOPDに対して行われた右心カテーテルを用いた詳細な循環動態の計測では、PaO₂は日常動作で低下したが、最大運動負荷(>25W)ではそれ以上の大きな増大はなかった。肺動脈圧(Ppa)は日常動作で有意に上昇し、25Wを超えた例ではさらに増大していた。

このように労作時の低酸素血症は肺血管抵抗の高値と相関しており、一過性の低酸素血症が死亡増加と関連する可能性が疑われている。

60Torr

最大労作時PaO₂を60 Torr未満 vs 以上に分けると、低い群で有意に死亡率が高かった(文献10)

340m

6MWDが340m以上かつΔSpO₂が6%未満の場合に予後良好(文献11)

6%

ΔSpO₂(安静→運動中の低下差)が6%未満で予後改善


エビデンスの限界

いずれの研究も患者数が少なく、酸素療法を実施すれば生命予後が改善されるかどうかのデータはほとんど報告されていない。運動中に酸化を保つことが生命予後をよくするという明確な報告もない。


運動耐容能に対する酸素療法の効果

労作時の息切れと運動耐容能の低下は、COPD患者を襲う厄介な症状である。酸素投与の有用性は幾つも報告されているが、対象や投与条件が様々であり、比較することが困難になっている。

① 安静時低酸素血症がある場合の効果

最初期のCotesとGibsonによる報告では、30%酸素を吸入しながらの運動はトレッドミルでの歩行時間を有意に延長できた。Davidsonらは酸素投与の用量反応相関を示し、室内気に比べて酸素を2L/分、4L/分、6L/分と変えてサイクリング下肢負荷試験をしたところ、運動能はそれぞれ51%・88%・80%増加していた

ただし、Leggett と Flenleyは12時間の歩行距離が酸素投与で増える可能性を示したが、酸素ボンベを引っ張ることがその効果を減じる可能性にも言及している。

② 安静時低酸素血症がある患者で効果が見込める対象

全体としては有用であるが、全員に効果がみられるわけではない。Cotesらの試験では、①安静時混合静脈血酸素分圧が低く、②運動時のPaO₂の低下が大きく、③PaCO₂の上昇が大きいことが、酸素投与の有用性を得られると示唆された

③ 安静時正常酸素分圧で労作時低酸素を生じる場合の効果

Jollyらは二重盲検試験で20名の安定COPDに対し、ランダムに室内気・圧縮空気・酸素の投与を割り振った。労作時低酸素血症を示した症例では、酸素投与は圧縮空気に比べて22%の歩行距離の増加と36%の息切れの低下が得られた。一方、労作時低酸素を認めない場合には、酸素投与は息切れを47%まで低下させたものの歩行距離は伸ばさなかった。


コクランレビューの結論

3つの小規模研究のメタアナリシスによって、酸素投与下のトレーニングにより運動能が向上して息切れが減少する可能性はあるものの、どの個人に有用性があるかを既存の研究からは決定できないと判断された

酸素療法が運動耐容能を改善させるメカニズム

メカニズム

概要

分時換気量の減少

酸素吸入によりPaO₂が上昇し、1回換気量が減少して分時換気量が低下する

鼻粘膜受容体への刺激

冷たいガスを吸入することによる鼻粘膜受容体への刺激が呼吸困難を軽減する可能性がある

肺血行動態と右心室機能の改善

肺動脈圧の低下、右房圧・肺血管抵抗の減少が認められる

末梢酸素運搬の改善

心拍出量と酸素含量の両方の増加を伴って酸素運搬能が有意に改善する

呼吸筋機能の改善

横隔膜の疲労出現が遅延し、補助呼吸筋の仕事量が減少する

動的過膨張の減少

呼気時間延長により動的過膨張が軽減され、横隔膜の力学的動きが有効になる

骨格筋のエネルギー代謝改善

phosphocreatine再合成率が改善し、筋のエネルギー代謝障害が軽減される

SECTION 06

Short Burst Oxygen Therapy(SBOT)の評価

SBOT(短時間酸素療法)とは、運動前・運動後、もしくはその両方で、呼吸困難改善のために酸素を間欠的に使用することを指す。主に安静時は低酸素血症がないが運動時に低酸素血症を生じるCOPDに対し、酸素ボンベを用いて実施されている。

  • !McKeonらによると、運動前10分間の酸素投与後にトレッドミルで最大運動負荷した場合、運動終了時のSaO₂や息切れの変化、歩行距離・心拍数ともに有意差がなかった(文献39)。

  • !Lewisらの報告では、安静時酸素飽和度92%以上のCOPD患者で6分間歩行距離とBorgスケールでの呼吸困難に有意差が認められなかった(文献41)。

  • !Eatonらは急性増悪で退院した患者を酸素ボンベ・空気ボンベ・通常治療の3群に割り付け6ヶ月追跡。HRQOL・気分・予約外受診・再入院・死亡について3群間で有意差がなかった(文献42)。

  • 現在までの知見では、SBOTが有効であるというエビデンスは存在しない。

メタアナリシスによる評価

対象と手法が様々な中、5つのRCTをレビューし、3つの研究(31例の酸素投与群と32例の対照)がメタアナリシスに含められた。酸素投与による運動効果は、一定強度運動時間が重み付け平均値差で2.68分(95%CI: 0.07〜5.28)の増加で認められた。また、一定強度運動終了時Borgスケールは酸素投与で有意に改善していた(重み付け平均値差 −1.22 units)。

エビデンスの質

GRADEシステムに基づくと、これらの結果はlow qualityに評価された。そのため査読者は、運動時の酸素投与の有用性をやや勧めるものの、現時点ではエビデンスは非常に限られていると結論した。

まとめ

COPD患者における運動時低酸素血症の評価と酸素療法の適応については、以下の点を押さえておくことが臨床的に重要である。


  • ● DLcoとSpO₂(安静時)の組み合わせが労作時低酸素血症の予測に有用

  • ● 運動時低酸素血症は肺動脈圧上昇・死亡率上昇と関連するが、酸素療法で予後が改善するエビデンスは乏しい

  • ● 安静時低酸素血症がある患者では、酸素療法は運動耐容能を改善させる可能性が高い

  • ● 安静時正常・労作時低酸素の患者では、酸素投与で歩行距離が増えることがあるが全員に効果があるわけではない

  • ● SBOTを支持する明確なエビデンスは現時点では存在しない

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