創傷ケア(スキン テア、褥瘡、下肢潰瘍)を科学する⑥~80代男性にみられたスキンテアとケアの工夫
- 賢一 内田
- 6月14日
- 読了時間: 3分
~抗凝固薬内服中の皮膚脆弱性に注意~
今回は、80代男性・Bさんのケースを通して、**スキンテア(皮膚裂傷)**への対応と予防についてご紹介します。

📌 事例の概要
Bさんは抗凝固薬を内服中で、上肢に紫斑がみられるなど皮膚の脆弱性が高い状態にありました。ある朝、ベッドから立ち上がろうとした際に転倒しかけ、床頭台の角に左腕をぶつけてしまい、左前腕部に2カ所のスキンテアを発症しました。
🔍 スキンテア発生のリスクについて
Bさんにはスキンテアの発症前からリスクがあったと考えられます。その理由は以下の通りです。
高齢による皮膚の菲薄化・乾燥
抗凝固薬による出血傾向と紫斑形成
筋力低下やバランス不良による転倒リスク
このように複合的なリスクが重なり、軽微な外力でも皮膚裂傷が発生しやすい状態でした。
🩹 2つの創部の評価とSTAR分類
Bさんの左前腕には、2か所の創が確認されました。創の状態をSTAR分類にて整理します。
左下の創:皮弁あり・血行良好・戻せる → Type 1(皮膚が付着しており復位可能)
右上の創:皮弁あり・血行やや不良・戻せない → Type 2(皮膚が付着しているが復位困難)
💊 局所ケアの選択と理由
今回のようなスキンテアに対しては、以下のようなドレッシング材の選択が推奨されます。
選択肢:
✅ 多孔性シリコーンゲルシート
選択理由:
皮膚に優しく非固着性で創面の保護に優れる
剥離時の痛みや二次損傷のリスクが低い
湿潤環境を保ちつつ創の治癒を促進
🔄 ドレッシング材の剥離方向
皮膚保護の観点から、ドレッシング材の剥離方向は重要です。本症例では、写真の上から下へ向けて剥離することで、皮膚の牽引とずれを最小限に抑えることができます。
🛡 スキンテア予防のためのケア計画
3日後の皮膚状態では乾燥傾向もみられ、保湿ケアが継続されています。今後の再発予防のためには以下の対応が有効です:

日々の保湿剤塗布(尿素やヘパリン類似物質など)
寝具・家具の角にクッション材を設置
衣類の素材を見直し、肌への摩擦を減らす
移動・起立動作時の見守り強化
🤝 チーム医療でのリハビリ導入時の留意点
発症から10日後に創部は無事に治癒。これを機に転倒予防も兼ねたリハビリテーションが開始されました。
その際のポイントは:

皮膚脆弱性を理解したうえでの運動負荷設定
セラピスト・看護師・ケアマネジャー間の情報共有
再発リスクのある部位を物理的に保護しながら活動量を増やす
✏️ まとめ[高齢者の皮膚脆弱性]
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スキンテアは高齢者の在宅・施設生活において頻繁に見られる問題です。皮膚の状態だけでなく、生活環境や疾患背景、服薬状況を含めた包括的な評価とケアが重要です。
Bさんのように、発生後の適切な評価・処置・予防対応により、早期の回復と生活の質の維持が可能になります。チーム全体でリスクと対策を共有し、「転ばぬ先のケア」を心がけていきましょう。
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