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高齢者の糖尿病治療、実は“下げすぎ”が危険?

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 4月13日
  • 読了時間: 3分


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~在宅医療の現場から考える、ちょうどいい血糖値とは~

糖尿病は、放っておくとさまざまな病気の引き金になります。たとえば、透析へ移行する慢性腎不全の最大の原因は「糖尿病性腎症」。さらに、心筋梗塞や脳梗塞などの血管障害とも深く関わっています。

中でも高齢者では、軽度の糖尿病であっても、感染症などをきっかけに「糖尿病性ケトアシドーシス」といった命に関わる状態に陥ることもあります。

しかし——糖尿病治療は、「ただ血糖値を下げればよい」というものではありません。

高齢者にとって“低血糖”こそ命取り

糖尿病では一般に「高血糖が問題」とされますが、高齢者ではむしろ“低血糖”がはるかに危険です。

なぜなら、高血糖はすぐには命に関わりませんが、低血糖は脳のエネルギー源であるブドウ糖を遮断してしまうため、意識障害、けいれん、最悪の場合は死に至ることもあります。低血糖は、“脳の酸素欠乏”にも匹敵する深刻な状態です。

「7%未満」は目指さなくていい?

日本糖尿病学会と日本老年医学会は、「高齢者における血糖コントロール目標」にHbA1cの“下限”を設定しています。これは、低血糖のリスクを避けるための極めて重要な指針です。

  • 合併症予防のためには HbA1c 7.0%未満 が推奨されますが、その効果が現れるのは10~15年後。

  • 余命がそれ以内であれば、厳密なコントロールはむしろリスクとなります。

在宅医療を受けているような高齢の方々にとっては、HbA1c 7~9%程度で安定している状態が理想的です。あえて7%未満を目指さない——これが大切な考え方です。

低血糖リスクの少ない薬を選ぶ

高齢の方には、低血糖を起こしにくい薬を選ぶことが大原則です。以下に、在宅医療の現場でよく使われる薬と、そのポイントをまとめました。

① メトホルミン(ビグアナイド薬)

  • 第一選択薬として広く使用

  • 心血管イベント予防、体重減少、低血糖リスク少ない

  • 腎機能に応じた使用が必要(eGFR30未満は禁忌)

  • 75歳以上では原則新規投与は控える

  • 副作用:下痢(約15%)、まれに乳酸アシドーシス

② SGLT2阻害薬/DPP-4阻害薬

  • SGLT2阻害薬:尿に糖を捨てる薬。脱水や尿路感染症に注意 ※eGFR45未満では効果が弱い

  • DPP-4阻害薬:腎機能に応じて選択可能(胆汁排泄型あり) 副作用が少なく、1日1回で服用可能

③ α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)

  • 炭水化物の多い食生活に有効

  • 食直前投与が必要。アドヒアランスの工夫を

④ GLP-1受容体作動薬(週1回注射)

  • トルリシティ」など週1回注射製剤あり 在宅での定期投与に活用できる

  • DPP-4阻害薬との併用は不可

⑤ BOT(Basal supported Oral Therapy)

  • 経口薬+持効型インスリン(1日1回注射)

  • 安全にインスリン導入が可能。低血糖リスクも低い

⑥ 避けたい薬

  • SU薬(スルホニル尿素薬):低血糖リスクが高く原則非推奨

  • チアゾリジン薬(アクトス):浮腫、心不全、骨粗鬆症の副作用リスクあり

最も大切なのは「その人らしさ」を守る治療

高齢者の糖尿病治療では、“血糖値の数値”だけにとらわれず、生活の質(QOL)や本人の状態に合わせた治療が求められます。

在宅医療の現場では、「安全に、穏やかに、暮らしを支える」ことが一番の目的です。HbA1cを7%未満に下げるよりも、「ちょうどよい血糖値」を一緒に探していくことが重要だと考えています。

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📷 本記事内の写真は、逗子・葉山・鎌倉の美しい風景を撮影されている山内様によるものです。

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