この記事の中で、日本熱傷学会は傷口にラップは「絶対に使ってはならない」、日本褥創学会は「やむ得ない場合は考慮してもよい」との見解を出しています。
では、実際に傷口にラップを使っていいのか?
まずは傷が治る仕組みから解説します。
怪我や火傷をして傷ができると、傷から浸出液がでてきます。
この浸出液は、傷を治す培養液のようなものだと思ってください。
この浸出液をうまく利用して、傷を湿った状態にして傷を早く治す治療法が、湿潤療法と呼ばれています。湿潤療法は、夏井睦先生が2001年にホームページ上で提唱した治療法で、消毒とガーゼの撲滅をうたっており、現在では広く一般にも知られています。
傷にガーゼを当てることがなぜいけないのかというと、ガーゼが浸出液(=傷を治す培養液)を吸収してしまうからです。また、ガーゼと傷がくっついてしまい、カーゼを剥がす度に出血し痛みがでます。
さて、傷に食品用のラップを当てるとどうなるかというと、傷は浸出液で湿った環境となり傷の治癒にはいい環境となります。また、ラップはガーゼと違って傷にくっつくこともありません。
しかし、ラップの欠点は、浸出液を一切吸収しないため、蒸れてくることです。
蒸れると、健常な皮膚がふやけてしまったり、細菌が繁殖する温床になり、感染の原因となります。先ほどの記事においてラップ療法の弊害は感染に関して特に記載されていました。
感染というのは、ラップが医療用ではなく汚いから起こるのではなく、浸出液が留まるから起こるのです。
つまり、浸出液を適度に吸収することができれば感染は起こらないはずです。
現在使用できる創傷被覆材には、様々な種類がありますが、基本的に傷を湿潤環境に保ちながら、浸出液を吸収するという点ではどれも同じです。創傷被覆材の種類によって、浸出液の吸収力に差があるため、傷によって使い分けるのです。
まとめると、ラップは浸出液を一切吸収しないため、傷口に積極的にラップを使用する理由はありません。しかしラップは手に入りやすいので、創傷被覆材がない時に、応急処置として短時間使用することはできます。具体的には褥瘡があり、ひとまずラップ療法しておいて創傷被覆材がベストな選択と考えます。またラップだけを使って治すのであれば、浸出液のコントロールが重要になってきます。こまめにラップを取り換えて浸出液を拭いたり、ラップに小さい穴を多くあけて、その上からガーゼやオムツなどを当てて浸出液を吸収するなどといった手間が必要です。
写真は逗子在住山内明徳様撮影
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