在宅医療における認知症について57~認知症への基本的対応
- 賢一 内田
- 1 日前
- 読了時間: 4分

〜安全と尊厳を両立させるために最初に行うこと〜
認知症が疑われた場合、まず行うべきことは**「原因を見極める」こと**です。その上で、日常生活を安全に、そしてできるだけ自立的に過ごすための対応を整えていきます。
1. まず除外すべきこと
認知症のように見えても、内科疾患や脳外科疾患が原因のことがあります。甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏、脳梗塞、正常圧水頭症など——いずれも治療可能な場合があります。
また、**薬の副作用による「薬剤性認知機能低下」**も少なくありません。睡眠薬、抗不安薬、抗コリン薬などが原因のこともあり、「一度減薬して様子を見る」ことが重要です。
これらの除外が済み、「認知症性疾患」として確からしい場合、次に行うのが基本的対応です。
2. 対応の優先順位
認知症の方への対応の原則は、次の5つのステップに整理できます。
1️⃣ 危険動作をやめてもらう2️⃣ 仕事や社会的活動をできるだけ長く続けてもらう3️⃣ 外出機会が乏しい場合はデイサービスなどを活用する4️⃣ 家庭内では「失敗体験」をさせない5️⃣ できる範囲で家事をお願いする
この順番を意識するだけで、日常対応の軸が明確になります。最初の一歩は「安全の確保」です。
3. 危険動作は最優先で止める
安全第一 ― 「やめる勇気」が命を守る
どんなに本人や家族の希望があっても、安全確保が最優先です。特に、認知症における代表的な危険行為は次の2つです。
自動車の運転
火の不始末(ガス・ライター・ストーブなど)
これらを止められれば、家庭内での重大事故を防ぎ、「早すぎる施設入所」を防ぐことができます。
4. 自動車運転への対応
事故リスクは一般の2.5倍
研究によると、認知症の方が運転する際の事故発生率は、同年代の一般ドライバーと比べて約2.5倍に増加します。
時間が経つにつれ判断力や注意力が低下し、ブレーキやアクセルの踏み間違いなどが起こりやすくなります。
納得して運転をやめてもらう工夫
理想は、本人が納得して自ら運転をやめること。そのために、伝え方の工夫が大切です。
💬 危険を強調する伝え方
「最近、法律が変わってこの病気の人は運転できなくなったそうです」「酔って運転するのと同じで、事故を起こすと責任がより重くなります」
💬 利益を強調する伝え方
「免許を自主返納すると“運転経歴証明書”がもらえます」「それがあれば身分証明書として使えるし、美術館や旅館が安くなる特典もありますよ」
運転をやめた後の生活設計
運転をやめると外出機会が減るため、代替手段の提案が不可欠です。
タクシーや送迎サービスを活用
公共交通の高齢者優待乗車証を申請
「浮いた費用(ガソリン・保険・車検代)」で交通費をまかなえることも
家族やケアマネジャーと一緒に「外出支援計画」を立てましょう。
それでも拒否する場合
「車を取り上げるのはかわいそう」「運転をやめたらボケる」など、強い抵抗があることも珍しくありません。その際は、本人のプライドを尊重しながらも、命を守るための説得が必要です。
「交通事故遺族の前でも同じことを言えますか?」「ご自身やご家族が“認知症ドライバー”にひかれたら、どう感じますか?」
それでも拒否する場合は、家族と連携して
車を一時的に隠す
免許証を預かるといった非常手段もやむを得ません。
既に事故を起こしている場合は特に、速やかな対応が必要です。時間が経てば車の存在を忘れ、興奮や妄想も自然に落ち着くことが多いです。
また、警察署や免許センターの運転適性相談窓口に相談すると、適切な助言や手続きの案内を受けられます。
まとめ
認知症が疑われたらまず内科・脳外科疾患や薬剤の影響を除外する
対応の優先順位は「①安全 → ②社会活動 → ③外出機会 → ④失敗を避ける → ⑤家事参加」
危険動作の中でも自動車運転と火の不始末が最重要
本人が納得できる説明と、代替手段の提案がポイント
必要であれば警察・行政の相談窓口を活用する
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