「立ち上がれない」の裏にあった意外な原因 〜認知症高齢者の転倒と骨折〜
- 賢一 内田
- 1 日前
- 読了時間: 2分

ある日曜日の出来事でした。
80代の男性。認知症がありながらも、歩行は自立レベルで、ヘルパーやデイサービスを利用しながら独居生活を送っていた方です。いつも通り、訪問に来たヘルパーさんが驚きました。こたつに座ったまま、「立ち上がれない」というのです。
痛みはない。意識もはっきりしている。バイタルサイン(体温・血圧・脈拍など)にも異常はない。
それでも、動けない。
隠れた骨折が見逃される背景
診察依頼があり、全身の診察を行うと、左の鼠径部(足の付け根)に圧痛を認めました。他動で股関節を動かしても痛みはなく、明らかな可動域制限もなし。
転倒したかどうか聞いてみても、認知症のため記憶はなく、返答は曖昧です。それでも、「何かある」と思い、レントゲンを撮ることにしました。
レントゲンに映ったのは…
当初疑った**左大腿骨近位部骨折(股関節の骨折)**は否定できました。しかし、よく見ると…👉 左恥坐骨骨折(※黄色矢印)が映っていました。

これは、骨盤の下部にある恥骨と坐骨の接合部にできた骨折です。股関節の痛みではなかったものの、鼠径部の圧痛と一致する所見でした。
念のため、仙骨や腸骨の骨折の有無もチェックしましたが、そちらは大丈夫。
骨折があっても「痛みがない」ことがある
この患者さんのように、認知症の方は痛みの訴えがはっきりしないことがあります。今回の骨折は荷重に大きな影響を及ぼさない部位だったため、疼痛の程度を見ながら、歩行許可を出しました。
結果的に、無事に再び歩けるようになり、ご自宅へ戻られました。
見逃さないためにできること
今回のように、「動けない」という主訴の裏に、**“痛くない骨折”**が隠れていることもあります。認知症がある場合は、問診だけで原因を特定するのは困難です。
だからこそ大切なのは、✅ 全身の診察を丁寧に行うこと✅ “話せない”痛みを身体所見から拾うこと
私たち医療者が、患者さんの「声にならないサイン」に気づくことで、在宅でも安心できる医療につながっていきます。
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