認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤48~大脳アミロイドアンギオパチー関連炎症
- 6月13日
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症例提示(CASE)
現病歴
患者背景
60歳代半ばの右利き男性。突然の頭痛と嘔気を自覚し、続いて左耳に綿を詰めたような閉塞感と左手のしびれ感を自覚した後、意識を失って倒れ、全身けいれんを発症。当院へ緊急入院。来院時けいれんは自然頓挫。入院数日後には意識も徐々に回復し、頭痛や嘔気もみられなかった。
初診時現症(神経学的)
脳神経(視野・聴力)正常。運動系・感覚系も正常。しかし以下の特異な症状を認めた:

検査所見
血算・凝固系正常。生化学で筋逸脱酵素上昇・アンモニア高値。乳酸・ピルビン酸、内分泌・免疫・腫瘍マーカー、各種ウイルス抗原/抗体正常。脳脊髄液・全身造影CT正常。
頭部CTで右頭頂葉に境界不明瞭な低吸収域。脳MRIでは右中下側頭回後方〜下頭頂小葉にかけて大脳皮質および深部白質に、FLAIRおよびDWI・ADC画像で高信号の浮腫性変化を認めた。T2*/SWI像で両側前頭葉と頭頂葉の皮質下白質に多発する微小出血(CMB)を認めた。
¹²³IMP-脳血流SPECTで右中下側頭回後方〜頭頂葉にかけて脳血流低下。長時間ビデオモニタリング脳波では右頭頂・側頭部に一部鋭波を伴う周期性高振幅θ波を認めた。
診断のポイントと鑑別
突然の頭痛・嘔気・左耳閉感・左半身しびれののちに意識消失・全身けいれんが出現。意識障害回復後に音楽性幻聴や聴覚性保続を持続的に認め、頭部MRIで右側頭葉〜頭頂葉にかけてFLAIR・DWI高信号を認めたことから、局在病変に伴う症候性てんかんが鑑別に挙がる。
音楽性幻聴と聴覚性保続はHeschel横回近傍の上側頭回や中側頭回との関連が指摘されている。また、未治療の高血圧や発作時の頭痛・けいれんからPRES(可逆性後頭葉白質脳症)・ミトコンドリア脳筋症・脳腫瘍も鑑別に挙がるが、微小出血の多発像とその周囲の血管性浮腫の所見からCAA-RIが疑われた。
その後の診断と経過
ボストン診断基準第2版に照らし、①50歳以上、②認知機能障害(半側空間無視・聴覚性保続)、③T2*強調画像で多発するCMBと皮質表面ヘモジデリン沈着(cSS)を認めたことからprobable CAAと診断。
さらにFLAIR画像で非対称性の大脳白質高信号があり、右頭頂葉皮質下微小出血の周囲に血管性浮腫を呈していたことからCAA-RIと診断した。
診断直後
音楽性幻聴・聴覚性保続にてんかんの可能性を考えて抗てんかん薬を投与 → 症状持続。
ステロイド開始
メチルプレドニゾロン 1,000 mg/日×3日間の大量静注療法施行後、経口プレドニゾロンへ移行し漸減開始。
プレドニゾロン 10 mg/日まで漸減
音楽性幻聴・聴覚性保続が速やかに消失。
最終診断:大脳アミロイドアンギオパチー関連炎症(CAA-RI)
CAA の病態と臨床型
病態の概要
CAAでは、皮質および軟髄膜の脳動脈・細動脈・毛細血管の血管壁にアミロイドβ(Aβ)が沈着することで、血管壁の弾性が失われ、血管壁の破綻や狭窄が生じる疾患。

CAAに関連して一過性の限局性神経症候を短期間に繰り返すことをTFNE(transient focal neurological episode)または「amyloid spells」とも呼ぶ。通常30分以内に頓挫する発作で、部位により陰性または陽性症状のどちらも呈する可能性がある。大脳皮質や軟膜血管組織が発生させる電気生理学的脱分極が原因とされる。一般的に抗てんかん薬の効果は乏しいとされる。
CAA の診断基準(Boston 基準 v2.0)
1991年にBoston Cerebral Amyloid Angiopathy Groupから提唱、2022年に改訂版(Boston基準v2.0)が発表された。改訂のポイント:
新追加臨床症状と組織診で診断できるProbable CAA with supporting pathologyが加えられた。
新追加臨床症状にTFNE・認知機能障害・認知症が加えられた。
Probable①50歳以上、②出血性病変(ICH・CMB・cSS)
Possible③非出血性画像所見として、円蓋部くも膜下出血(cSAH)・半卵円中心の血管周囲腔拡大(CSO-PVS)・大脳白質多発点状高信号(WMH-MS)が加えられた。

疫学・臨床症状

MRI所見の特徴

血液検査では赤沈・CRPの異常値、PR3-ANCA陽性などが報告されている。髄液では蛋白上昇を伴うことが多く、オリゴクローナルバンドについては一貫していない。ADコア髄液バイオマーカーはAβ₁₋₄₂が減少、総タウ・リン酸化タウは増加の報告が多い。アポe4だけでなくアポe2遺伝子キャリア率も高い。
神経病理学的には大脳の小中血管周囲にリンパ球やマクロファージの浸潤を認める。CAA-RIの重症度が増すにつて、血管Aβの沈着が減少することが指摘されており、免疫介在性Aβクリアランス機構の過剰が原因として指摘されている。この機序はモノクローナル抗体を用いたAlzheimer病治療におけるARIA-EやARIA-Hと類似している。
CAA-RI の治療
急性期治療(免疫治療)
早期の免疫治療導入が長期的に良い転帰をもたらすと報告されている。

ステロイド後療法を行うと再燃リスクが低下する。後療法にシクロホスファミド・ミコフェノール酸モフェチル・アザチオプリンが併用されることもある(保険適応外)。
転帰不良の予測因子
予測因子 |
発症初期の重症度が高い |
脳内出血の合併 |
感染症の合併 |
免疫抑制療法の減量・中止後の再発 |





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