認知症の行動・心理症状(BPSD)に対して抑肝散が効く理由と注意点
- 賢一 内田
- 4月28日
- 読了時間: 2分

認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)に対して、漢方薬の**抑肝散(よくかんさん)**が効果を発揮することが知られています。私自身も、在宅医療の現場でよく抑肝散を処方しています。
忘れられない抑肝散の症例
私が忘れられない症例に、頚椎症性脊髄症を患った患者さんがいます。この方は、誰もが知る某有名企業の人事部長を務め、リストラ断行の激務の中、症状が悪化し、手術を控えていました。月曜日に手術予定、金曜日に入院されたのですが、土曜日には前後不覚の状態との報告があり、夜に急遽診察へ向かいました。
診察時、患者さんはまるで別人のようなせん妄状態でした。そこで抑肝散を処方し、翌日の様子を見て手術を中止するか判断する方針としました。そして翌朝、再度診察すると、あのきちんとした部長さんに戻っていたのです。抑肝散の即効性と効果に、処方した私自身も驚かされました。
しかし、「何でも抑肝散」ではいけない
抑肝散は、BPSDの中でも興奮、妄想、幻覚といった陽性症状に効果があります。一方で、うつ、食欲不振などの陰性症状には効果がなく、むしろ症状を悪化させることもあります。
したがって、BPSDがあるからといって、すべてのケースで抑肝散を処方すればよいわけではありません。特に、抑肝散を服用している患者さんに食欲不振が出た場合は、一度中止を検討する必要があります。
また、抑肝散の効果判定は2~4週間を目安に行い、効果がみられなければ漫然と続けずに中止するべきです。
「漢方薬=安全」ではない
漢方薬だからといって、安全とは限りません。抑肝散には甘草(かんぞう)が含まれており、長期服用によって偽性アルドステロン症(低カリウム血症、四肢脱力、高血圧、浮腫)を引き起こすリスクがあります。
実際に、80歳代の抑肝散服用患者さんの約6%で低カリウム血症が発症していたという報告もあり、定期的な血中カリウム値のチェックが推奨されます。
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