若年糖尿病患者の腰痛に潜むリスク ― 壊死性筋膜炎の見逃しを防ぐために
- 賢一 内田
- 6月13日
- 読了時間: 2分

脳神経外科医として病院勤務していた当時、私は脊椎手術も多く手がけていました。特に静岡勤務時代には、高名な整形外科医の先生が立ち上げた「脊椎センター」にて、週1回の外来と年間40〜60件ほどの脊椎手術に関わっていました。
外来には腰痛を訴える患者さんが数多くいらっしゃいましたが、その中で、私にとって今でも忘れられない“見逃し”があります。
「尋常でない腰痛」の正体
ある日、強い腰痛を訴える中年男性患者さんが外来を受診されました。CT検査を行い、脊椎や椎間関節など整形的な構造に注目して診断を進めましたが、実は軟部組織(筋肉や筋膜など)を十分に評価しておらず、「壊死性筋膜炎(necrotising fasciitis)」を見逃してしまいました。
幸い、当時勤務していた病院には放射線科の読影医が常時7~8名在籍しており、PHSに「先生、この所見、壊死性筋膜炎ですよ」と連絡をいただき、即座に対応することができました。
この経験以来、私は以下のように自戒しています。
若年(40〜60代)×糖尿病+尋常でない腰痛 = 壊死性筋膜炎を疑え!
BMJから学ぶ壊死性筋膜炎の診断ポイント
壊死性筋膜炎は急速に進行し命に関わる病態であるにもかかわらず、初期は一般的な皮膚炎や筋肉痛と見分けがつきにくく、診断の遅れが命取りになります。BMJ(British Medical Journal)の2012年のレビュー記事から、臨床上の注意点(Learning points)を以下にまとめました。
壊死性筋膜炎(BMJ 2012年7月)
壊死性筋膜炎は、健康な若者にも起こる急速進行性・致死的な軟部組織感染症である。
インスリン使用中の糖尿病患者、血液悪性疾患のある患者は特にリスクが高い。
診断には“何かおかしい”という強い臨床的疑いが重要。通常の治療に反応しない場合、特に要注意。
早期の外科的生検が診断・治療に不可欠であり、合併症は少ない。
早期の手術介入で生存率は60〜80%。診断・デブリードマンが遅れると切除範囲や後遺症リスクが拡大する。
在宅医療でも「腰痛」は日常的な訴えですが、基礎疾患や年齢背景、痛みの性状に応じて“整形外科的”な視点だけでなく、“感染症”の可能性にも目を向けて診る必要があります。
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