看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する54~在宅でできる「水分貯留と心機能」の評価
- 賢一 内田
- 10月31日
- 読了時間: 3分

〜心嚢液・胸水・LVEF・IVCの観察ポイント〜
① 水分貯留の評価 ― 心嚢液と胸水を見分ける
在宅医療で心不全を診るうえで重要なのが、**体内の水分貯留(うっ血)**を把握することです。心臓の周囲や胸腔内に液体がたまると、呼吸苦や倦怠感の原因になります。
心嚢液は心臓を包む膜(心嚢)の内側に貯留し、**心窩部断面(みぞおち方向からのアプローチ)**で観察できます。エコー上では液体成分のため、黒く抜けた無エコー域として描出されます。同様に、胸水も胸腔内にたまる液体で、心嚢液と同じく黒い無エコー像として観察されます。
少量の心嚢液は経過観察で済むことが多いですが、**心嚢液が多量に貯留して心臓を圧迫する(心タンポナーデ)**場合は緊急対応が必要になります。
② 心収縮機能の評価 ― LVEF(左室駆出率)
心臓のポンプ機能を示す最も代表的な指標が、**LVEF(Left Ventricular Ejection Fraction:左室駆出率)**です。
LVEFは、心臓が拡張して最も大きくなったときの左室内径(拡張末期径)と、収縮して最も小さくなったときの左室内径(収縮末期径)を比較して求めます。胸骨左縁からの左室長軸像で測定し、Mモードで動きを確認するのが一般的です。
LVEF値 | 判定 | 主な心不全タイプ |
50%以上 | 正常または拡張不全型 | HFpEF(拡張不全による心不全) |
40〜50% | 境界領域 | 状況により判断 |
40%未満 | 収縮不全型 | HFrEF(収縮不全による心不全) |
LVEFが低下している場合は心筋の収縮力が落ちたHFrEF(収縮不全型心不全)、一方でLVEFが保たれているのに心不全症状がある場合は**HFpEF(拡張不全型心不全)**と判断します。
HFpEFでは、心臓が硬くなって拡張しづらくなり、労作時の息切れ・倦怠感・夜間頻尿などが見られます。
在宅医療では、LVEFを厳密に測定できなくても、**「左心室の動きがしっかりしているか」「壁全体が均一に動いているか」**を目視で確認するだけでも十分な情報になります。
③ 血行動態の評価 ― 下大静脈(IVC)を観察
下大静脈(IVC)は、全身から右心房へ血液を戻す大きな血管で、右房圧や循環うっ血の状態を反映します。IVCの太さと呼吸による変化を観察することで、体内の水分量と循環動態を推測できます。
心窩部からのエコーで、右房入口部から約2cm離れた位置を観察します。IVCの太さを、**吸気時(最小径)と呼気時(最大径)**で測定します。
IVC径 | 呼吸性変動 | 所見の目安 |
≤20mm | 呼吸で変動あり | 正常 |
≥20mm | 呼吸で変動なし | うっ血性心不全の可能性 |
≤10mm または虚脱 | 呼吸でつぶれる | 脱水傾向 |
IVCの拡張は右心系うっ血を示し、利尿薬の調整や補液管理の判断材料になります。逆に、IVCが細く虚脱している場合は、脱水や低循環状態を疑います。
④ 在宅での心エコー評価の意義
在宅の現場では、LVEFやIVCを定量的に測ることが難しい場合もあります。それでも、
心臓や胸腔に液体があるかどうか
左室の動きが明らかに低下していないか
IVCが太いか・つぶれるか
といった「視覚的な評価(目視チェック)」だけでも、十分に心不全の悪化を察知できます。
早期にうっ血を見つけられれば、利尿薬の調整や補液制限を行い、入院を回避できる可能性もあります。携帯型エコーの進歩により、こうした判断がベッドサイドや自宅で可能になりました。
まとめ
心嚢液・胸水は黒く抜けた無エコー域として描出される
LVEFで心収縮能を、IVCで血行動態を把握できる
HFrEF・HFpEFの分類は、治療方針決定の重要な指標
在宅でもエコーを使えば、心不全の早期発見・再入院予防が可能




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