看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する45~エコーで見るDVT(深部静脈血栓症)― リンパ浮腫との鑑別にも重要
- 賢一 内田
- 10月15日
- 読了時間: 3分

リンパ浮腫と同様に「下肢の腫脹」を呈する疾患として、**深部静脈血栓症(DVT: deep vein thrombosis)**があります。DVTは、**肺塞栓症(PE: pulmonary embolism)**の原因となり得る、命に関わる重要な疾患です。今回は、DVTの基本・症状・エコーによる診断法を整理します。
🩸DVTとは? 〜VTEという概念〜
DVTとは、主に**下肢の深部静脈(腸骨静脈〜下腿静脈)**に血栓が形成された状態を指します。それ自体は必ずしも致死的ではありませんが、血栓が肺へ飛んでPE(肺塞栓症)を起こすと、突然の呼吸困難やショックを来し、重篤な転帰をとることがあります。
この DVTとPEを合わせて「VTE(venous thromboembolism:静脈血栓塞栓症)」 と呼びます。VTEは俗に「エコノミークラス症候群」「旅行者血栓症」としても知られ、長時間同じ姿勢で過ごす飛行機搭乗中や、術後の臥床中に発生することがあります。
💡 日本でも近年、生活習慣や高齢化、長時間手術などの影響でVTEは増加傾向にあります。
⚙️DVTの発症メカニズム(Virchowの三徴)
DVTは以下の3要因(Virchowの三徴)によって発生します。
凝固能亢進(脱水・悪性腫瘍・術後・妊娠など)
静脈うっ滞(長期臥床・下肢麻痺・肥満など)
静脈壁損傷(外傷・カテーテル留置など)
🩻症状と臨床所見
主な症状 | 臨床的特徴 |
下肢の腫脹・疼痛 | 一側性が多く、急速に出現する |
圧痛 | 下腿後面〜膝窩部に触診痛 |
圧痕性浮腫 | 指で押すと跡が残る |
周径差 | 健側より3cm以上の腫大 |
表在側副静脈の怒張 | 慢性期でみられる |
これらの症状だけでは他疾患(リンパ浮腫・蜂窩織炎・静脈瘤など)との鑑別が難しく、エコー検査による直接確認が診断の鍵となります。
🔍DVTの分類 ― 発生部位と形態による違い
① 部位による分類
近位型DVT:腸骨〜膝窩静脈まで
遠位型DVT:下腿深部静脈(ヒラメ筋静脈など)に限局
💡 近位型ほどPEのリスクが高く、早期診断と抗凝固療法が必須です。
② 形態による分類
分類 | 特徴 | リスク |
閉塞型 | 静脈内腔を完全に閉塞 | 血流途絶、うっ血強い |
非閉塞型 | 内腔の一部に血栓残存 | 血流は一部保たれる |
浮遊型 | 血栓の中枢側が静脈壁に固着せず内腔に浮遊 | 高リスク(塞栓源)⚠️ |
🧠DVT診断の流れ
Dダイマー検査 血栓分解産物であるDダイマーの上昇を確認。陽性であれば次へ。
エコー検査(圧迫法) 血栓の有無と範囲を直接観察。 静脈を圧迫し、「内腔が潰れなければ血栓あり」と判断します。
🩺エコーでの観察手技と評価ポイント
DVTをエコーで診る際は、以下の点を意識します。
評価項目 | 内容 | 意義 |
部位診断 | 骨盤内総腸骨静脈〜下腿静脈まで連続的に観察 | 血栓範囲を正確に把握 |
形態診断 | 閉塞・非閉塞・浮遊の型を判定 | PEリスク評価 |
性状診断 | エコー輝度や内部均一性を評価 | 血栓の新旧を推定 |
🩻 性状の見分け方
急性期血栓:低エコー(黒く見える)で柔らかい、圧迫しにくい
慢性期血栓:高エコー(白く見える)で硬く、器質化して壁に癒着
⚠️ 慢性化した血栓では、静脈内腔が狭小化・石灰化し、リンパ浮腫との鑑別が必要になります。
📍観察のコツ(B-mode圧迫法)
プローブを縦方向に連続走査し、静脈の連続性を追う
定期的に圧迫を加えて内腔の潰れ具合を確認
血栓を認めた場合は
範囲
位置(近位/遠位)
先端の可動性(浮遊性)を記録する
💡 血栓の可動性は、肺塞栓発症の危険性評価に最も重要な所見です。
🩶まとめ ― DVT評価の意義とリンパ浮腫との関連
DVTはPEの前段階であり、見逃せない疾患。
エコーは非侵襲的かつ即時性に優れた一次診断ツール。
リンパ浮腫とDVTは“むくみ”という共通症状を持つため、両者の鑑別においてエコー評価が不可欠。
血栓の部位・範囲・性状を正確に把握することで、 早期治療と再発予防、そして患者の安全管理につながります。




コメント