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「歩かせないこと」のリスク 〜転倒を恐れて失われるもの〜

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 3月28日
  • 読了時間: 3分

勤務医時代、入院患者すべてに対して必ず取得していた書類のひとつに「身体抑制に関する同意書」がありました。特に手術後などは、麻酔の影響で意識がもうろうとし、危険行動をとることもあります。こうしたケースでは、身体抑制もある程度理にかなっていると思います。

しかし、私が主に治療していたのは脳卒中の患者さんで、その多くが高齢者でした。高齢者は転倒リスクが高く、実際に「動けない人が動こうとして転倒してしまう」ことはよくあります。ただ問題は、「よく動ける人にまで身体抑制をかけてしまう」という点です。

これは、転倒などのリスクを避けたいという「管理側の都合」が大きな理由です。もちろん、転倒によって頭部外傷や脊椎骨折などの重大な事態につながることもあります。そのため、病院に限らず、高齢者施設でも「勝手に歩いて転倒されたら困る」という理由で歩行を制限するケースが少なくありません。

けれども、歩かせないことによって足腰が弱り、結果として「歩けなくなる」ことがあるのです。「転倒して歩けなくなったら大変だ」という思いから歩行を制限するものの、結局その判断が「歩けなくなる未来」を招いてしまう。本末転倒とはまさにこのことではないでしょうか。

歩くこと、立つことには、実は多くの生理的メリットがあります。例えば、以前ご紹介した『新版 間違いだらけのリハビリテーション』では、「起立−着席運動」が嚥下機能を改善し、さらには認知機能にも良い影響を与えると述べられています。立ち上がるという行為そのものが、人間らしさや尊厳を守ることにもつながっているのです。

ですから私は、「歩かせないことで廃用が進み歩けなくなる」よりも、「転倒→骨折→歩けなくなる」の方が、まだ人として自然なプロセスなのではないかとさえ思っています。

もちろん、安全第一で「抑制してでも動けなくしてほしい」という選択肢があっても良いと思います。しかし一方で、「転倒のリスクがあっても歩かせてほしい」という選択肢も、もっと尊重されるべきではないでしょうか。

そのためには、事前に「転倒しても歩かせる同意書」を取得するというのも一つの方法だと思っています。介護施設や在宅医療においても、「転倒リスクとどう向き合うか」はとても大きなテーマです。

今後のブログや動画でも、実際の様子を分かりやすく紹介していきますので、気になる方はぜひチェックしてみてください👇

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